エルメスの現当主であるジャン・ルイ・デュマ・エルメス(1938〜)はロベールの第4子でもあり、そもそもエルメスを継ぐ気はなかったという、いわば傍流の社長である。パリ大学法学部、パリ政経学院卒業後にアルジェリア戦争に従軍し、インドやアジアを放浪した後、ニューヨークのデパート、ブルーミングデールにフランス人初の研修生として半年間勤務した。このとき高級デパート、ニーマン・マーカス幹部の知遇も得て、アメリカ流のビジネスに触れる。滞在先はのちにジョン・レノンが住むダコタハウスだ。かつてはドラマーとしてバンドにも参加していたほどジャズ好きのデュマは、まだ白人がまばらだったころのニューヨークのジャズクラブによく通っていたという(「エスクァイア」1997年10月号)。敬愛するケネディの暗殺後、ケネディはエルメスの鞄「サック・アーデペッシュ」を愛用しており、暗殺当日にもこの鞄を使用していた。デュマはロベールの要請を受けてエルメスに入社し、職人見習いから始めてデザインも担当するようになる。ちなみに彼は、現在もクリェイティブ・ディレククーとしてエルメス製品を統括している。1978年、ロベールの逝去を受けて、デュマは40歳でエルメス5代目の社長に就任した。ロベールの時代に定着した「古くさい」イメージを取り払い、高級感そしてブランドの原点を保ちながらも若者に対する訴求力を持たせなければならない。ブランドの「再生」がデュマの急務だった。